雪は悲劇にも心の安らぎにもなる。
冬山遭難、交通渋滞、スリップ事故、除雪の苦情、屋根の雪下ろしでの落下事故などの悲劇もある。
雪は毎年降り積もる。その年によって多い、少ないはある。
我々幼少の頃は大雪の対策はどのようにしていたのだろうかと、ふと思うことがある。
都会の騒々しさから離れ、静かに雪の情景を思い浮かべてみた。
私が小学校時代の国語の教科書に載っていた大好きな詩だ。
今の若い人達にはきっと理解出来ない世界かもしれない。
農村部の静かな雪の夜の情景を思い浮かべる。
ここには除雪の苦情も交通渋滞もない。
この頃はテレビもビデオも携帯電話もない時代。
夜は一家団らんで、まきストーブやコタツに入ってラジオを聴く楽しみぐらいではなかったろうか。
この詩の冬の情景は秋田県南部、仙北地方の風情をいつも思い浮かべる。
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雪の日
田中冬二 「春愁」昭和22年所収
雪がしんしんと降っている
町の魚屋に赤い魚青い魚が美しい
町は人通りもすくなく
鶏もなかない 犬も吠えない
暗いので電灯をともしている郵便局に
電信機の音だけがする
雪がしんしんと降っている
雪の日はいつのまにか
どこからもなく暮れる
こんな日 山の獣や鳥たちは
どうしているだろう
あのやさしくて臆病な鹿は
どうしているだろうか
鹿はあたたかい春の日ざしと
若草をしたっている
いのししはこんな日の夜には
雪の深い山奥から出てくるかも知れない
お寺の柱に大きな穴をあけた啄木鳥は
どうしているだろう
みんな寒いだろう
すっかり暮れたのに
雪がしんしんと降っている
夕餉(ゆうげ)の仕度の汁の匂いがする
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原文は「い」→「ゐ」 「ろ」→「ら」になっております。