第二報道部オフサイド日記

秋田の話題・お祭り・風景・秋田のラグビーの紹介

高校ラグビーの課題と未来へ挑戦

<ヤフーニュースより>

高校ラグビーの課題と未来への挑戦

 102回目の“花園”――全国高校ラグビー大会は1月7日、東福岡の6大会ぶり7度目の優勝で幕を閉じた。今季も多くの熱戦、激闘が繰り広げられたが、華やかな強豪同士の戦いの一方で、都道府県予選では対戦校のメンバー不足により鳥取・倉吉東が県予選を1試合も戦わずに花園出場を決めるなど、参加校不足、部員減少に苦しむチーム、地域も増えている。日本ラグビーが発展するための基盤でもある高校ラグビーは、これからどうなるのか。当事者となった倉吉東の岩野竜二監督をはじめ、参加校不足や部員減少に苦しむ地域からの花園出場校の監督に、その実情や問題点、これからの挑戦について話を聞いた。(取材・文=吉田 宏)

 ◇ ◇ ◇

 東福岡が圧倒的な力を見せて、今季の花園は幕を閉じた。王者にも、敗れていったチームの中にも、これからの日本代表を背負う可能性を持つ好素材を数多く見ることができたが、開幕前には日本ラグビーの未来にも影響しそうなニュースが報じられた。

『1試合もせず「花園」 鳥取予選が投げ掛けた高校ラグビーの課題』

 昨年12月9日付けの毎日新聞(電子版)の見出しだ。3チームが参加した鳥取県予選だったが、1回戦に参加予定だった米子工、倉吉総合産が、試合を満たす選手を揃えることができず、ともに辞退を申し出た。そのためシードされていた倉吉東が、決勝戦を行わずに5大会ぶり12度目の花園出場を決めたのだ。

 その倉吉東は花園の1回戦第1日の第1試合に登場すると、出場30回を誇る宮崎・高鍋に0-66とスコアレスで敗退した。出場校最速で花園を去ることになったが、実力も経験値も、そして選手層も差がある相手に、弾き返されても粘り強くタックルに入り、まとわりつき、60分間抵抗し続けた。何度も吹っ飛ばされ、ボールを繋がれ、最後は独走される場面も多かったが、相手のアタックを1歩でも遅らせようと体を張り、再び走り続ける姿が印象的だった。

 苦しいチーム運営を続けながら部員たちを全国の舞台に連れてきた同高OBでもある岩野竜二監督は、真っ先に花園の夢を終えた選手たちを称えた。

「選手は立派だったと思います。諸事情で試合に出られない子が4人いたので、選手たちにはその子の分までということと、しっかり価値のある時間を過ごしましょうという話をしてきました。彼らなりに最後まで体を張り続けてくれたので、そこは価値があったと思います」

 試合前、発表されたメンバーリストを見て驚かされた。当初は19人の選手登録を予定していたが、リストに書かれた選手はわずか15人。つまり交代選手なしの布陣で戦うことになった。試合後に、岩野

監督は理由を「感染症のため」と言葉少なに語ったが、取材する側は、よくぞ試合が成立する人数に感染者を押しとどめてくれたという、監督、スタッフ、そして選手たちへの称賛の思いしかなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 花園常連校と言われる強豪チームの指導者も、参加校や部員数の減少という問題を抱えながら日々強化に取り組んでいる。全国高校ラグビー大会に出場した島根・石見智翠館の安藤哲治監督からも、貴重な意見を聞いた。

 32年連続出場の石見智翠館が戦う島根県も、チーム数不足に苦しんできた。今季の県予選参加チームはわずか「2」。しかも1校は合同チームというなかで、智翠館は花園でベスト4が1回、ベスト8も2回という実績を残してきた。今大会でも3回戦まで勝ち上がり、奈良・天理に8-15と奮闘している。関西などジュニアラグビーが盛んな地域から多くの選手が入学しているのも智翠館の特色だが、「自チームの強化」と同時に「競技人口」という2つの戦いを続けているチームでもある。

 就任22年目の指揮官は、島根の実情をこう語っている。

「今まで出雲高校さんが単独で頑張ってくれていたんですけど、コロナの影響で試合もできない、遠征もできないというこの2、3年の影響がありました。今年も部員はいたんですけど、春くらいで退部してしまっていた。やはり、発表の場がないことで面白くないんでしょうね。鍛えても、やってもやってもその場がないですから。石見智翠館も、うちだけ良ければいいという思いは全くなくて、僕も中国地方の(協会)委員長もしているので、鳥取とか島根とか他県もそうですけど、もう少し何かしていかないといけないという思いはあります」

 強豪チームの指導者であり、地域の協会でも役職を持つ立場からの、即効性のある取り組みがあるのかも聞いてみた。

「何かカテゴリーを分けたような試合をするなど、とにかく試合経験を増やしてあげたいなという思いはありますよね。だからといって、部員が増えるのか分からない。でも、もう少しラグビーを今やっている子が満足感を得るような、体験をできるような機会を作ってあげたい。少人数での部活だけでは、(現行のルールでは)対戦相手もいないし、練習中もゲーム形式のメニューができない状況です。同じようなレベル同士で試合ができるような環境を、僕らが整えていかないといけないのかなという気はしますね」

 10人制や12人制という人数の少ない形式での実戦、大会も柔軟に検討するべきなのかもしれない。そして島根、中国地方で感じるラグビーに対する雰囲気や、中学生年代での普及の難しさについても語ってくれた。

「(少子化ラグビー離れで)ラグビーをさせたくないという空気はあるのかなとは感じますよね。中学レベルでの普及については、僕らもジュニアの普及活動をやっていたこともあって、地元の子が入ってきてくれた時期もありました。今も小学生レベルではラグビーをしている子はいるんですけど、(部活がない)中学になると、ちゃんとした部活(他競技)のほうに行ってしまう子がほとんどです」

吉田

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾ジョン・カーワンエディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19年と6大会連続で取材。