雪がしんしんと降っている

雪の日
 田中冬二  「春愁」昭和22年所収

雪がしんしんと降っている
町の魚屋に赤い魚青い魚が美しい
町は人通りもすくなく
鶏もなかない 犬も吠えない
暗いので電灯をともしている郵便局に
電信機の音だけがする
雪がしんしんと降っている
雪の日はいつのまにか
どこからもなく暮れる
こんな日 山の獣や鳥たちは
どうしているだろう
あのやさしくて臆病な鹿は
どうしているだろうか
鹿はあたたかい春の日ざしと
若草をしたっている
いのししはこんな日の夜には
雪の深い山奥から出てくるかも知れない
お寺の柱に大きな穴をあけた啄木鳥は
どうしているだろう
みんな寒いだろう
すっかり暮れたのに
雪がしんしんと降っている
夕餉(ゆうげ)の仕度の汁の匂いがする

原文は「い」→「ゐ」   「ろ」→「ら」になっております。